石狩浜ハマナス再生プロジェクト

石狩浜の自然

日本三大河川のひとつ、石狩川がそそぐ石狩浜は、多様な生命が生きづく「海岸砂丘」が広大に残る、国内有数の自然海岸。

全長25kmにおよぶ海岸砂丘上に広がる海岸草原や海岸林は、 植物を育み、鳥たちの繁殖地となっています。


石狩浜に生きるハマナス

石狩浜に咲く海辺のバラ「ハマナス」。

初夏の訪れとともに、ほのかな甘い香りを放ちながら、力強いピンクの花が海辺を彩ります。

砂地に根を張るハマナスは、海からの風や砂を受けとめ、他の海浜植物とともに、

海岸草原、海岸林へとつづく海岸砂丘特有の生態系をつくりだします。

その葉陰には小鳥が巣をつくり、花には虫たちが集まり、果実を求めて動物たちが訪れ、

ハマナスは海岸砂丘一帯に生命を育でいます。

 Created by P. R. Redoute, published on Les Roses, Imp. Firmin Didot, Paris, 1817-24
Created by P. R. Redoute, published on Les Roses, Imp. Firmin Didot, Paris, 1817-24
砂地に這うように生えるハマナス
砂地に這うように生えるハマナス
石狩浜のハマナス自生域
石狩浜のハマナス自生域(クリックで拡大)

【ハマナス】浜茄子、浜梨、玫瑰、学名:Rosa rugosa

 

 バラ科バラ属の落葉低木。英名にJapanese Rose (日本のバラ)、Beach Rose(海辺のバラ)という名前を持つ北東アジア原産の原種のバラ。樹高1〜1.5m、ほふくする根茎と種子によって繁殖し、時に大群落を作る。5月下旬から9月頃まで(石狩浜では)、5枚花弁の大輪(径5センチ〜8センチ)の赤紫色の花が繰り返し咲き、甘い芳香がある。8月〜10月に径2〜3センチの扁球形の赤い果実(偽果)がなる。かつては北海道の海岸線の至る所に自生群落がみられたが、現在は石狩海岸、オホーツクの原生花園、野付半島に大きな群落が残っている。近年、各地の公園や街路、個人庭などで栽培されているハマナスを見かけるが、多くはヨーロッパに渡り、観賞用に品種改良された園芸品種である。

 

-成分・利用-

ハマナスの花(花弁)には、強い芳香があり、その成分はフェニチルエチルアルコール、ゲラニオール、シトロネラール、シトロール、リナロール、オイゲノールなど多数の成分からなることが知られ、賦活、鎮静、緩和、収れん、抗菌作用などがある。また、アントシアニン、タンニンをはじめとするポリフェノールも豊富に含まれる。果実(偽果)には豊富なビタミンCが含まれ、ポリフェノール、有機酸、カロテンなども多く、抗酸化作用、整腸作用、疲労回復などが期待できる。アイヌの人々は果実をマウ、木をマウニと呼び、根を煎じて腎臓の不調に、実を生食や乾燥保存して食用に利用していた。


石狩とハマナス

 

-自然環境の中のハマナス-

石狩浜においてハマナスの群落は、多様な海浜植物が生きる海岸草原とその先に続く海岸林の生態系のキーとなっている。

石狩浜では、汀線近くにはコウボウムギ、ハマヒルガオなどの群生が見られ、その内側にハマナスやハマエンドウなどの群落がある。地下茎を深く砂地に根を張るハマナスは、海からの風や砂を受けとめ、他の海浜植物とともに、海岸草原、海岸林へとつづく海岸砂丘特有の生態系をつくりだす。その葉陰に小鳥が巣をつくり、花に虫たちが集まり。果実を求めて動物たちが訪れ、ハマナスは海岸砂丘一帯に生命を育くんでいる。

 

 -郷土史の中のハマナス-

昭和の初め、まだ北海道の海岸線にハマナスの群落が多く残っていた頃、各地から集められたハマナスの花から国産香料が作られていたことがあった。

当時、ハマナスから作られた天然香料はたいへん高価なもので、昭和28年ごろで1キロ25万円もしたという。米一俵(約60キロ)が3280円の時代である。石狩の海辺に暮らす人たちも、香料会社の委託を受け花摘み作業に勤しんだ。
働き手は農家の主婦が主で、田植えが終わった時期に副業として花を摘んでいた。朝まだ薄暗い4時ごろから花が開いてしまわないうちに摘み取り、1人で4キロ弱の花びらを詰み、200円程度になったという。腰に風呂敷を縛り花を摘むという簡単で綺麗な仕事の上に、すぐに現金になったので、子どもたちも小遣い稼ぎに摘むこともあった。

花の最盛期は6月の中ごろ。花摘みは5月から8月の初めまで続き、バラの原種の国産天然香料の生産を支えていた。

しかし有機化学が発展し合成香料が作られるようになると、高価な天然香料は使われなくなり、昭和42年香料会社の工場閉鎖とともに石狩浜の花摘みは終了した。(「石狩百話」「あつた百話」より)

さらに遡って明治の北海道開拓時代には、石狩浜のハマナスでバラ水や香油などが試験製造され、北海道の産業資源として模索されていた記録が残っている。

 

・明治9年には石狩海岸で摘んだハマナスの花から「香水」(現在の芳香蒸留水をさすと思われる)を試験製造。

 ・明治12〜13年に、石狩産ハマナスから製造した「ハマナス油」(精油であったと思われる)を製造。

・明治13年、宮城県博覧会にハマナスの「香水」を出品。

 

などなど、興味深い記録が「開拓使公文録」などの多くの古文書に残っている。

(いしかり砂丘の風資料館紀要 第6巻39−50より)



さまざまな命がいきづく 石狩浜

全長25㎞におよぶ海岸砂丘上に広がる海岸草原や海岸林は、植物を育み、鳥たちの繁殖地となる

季節を彩る植物たち

遅い春をつげるイソスミレ

初夏・優美に彩るエゾスカシユリ

初夏、石狩湾を望む丘にハマナスが咲き誇る

花たちが彩る海岸草原の背後にはドングリが実るカシワの天然林が広がる

砂丘に咲き競うハマエンドウと訪れるキアゲハ

夏の砂丘を飾るハマヒルガオ

群生するハマボウフウ


石狩浜で命をつなぐ動物たち

ハマナス覆う砂丘のかげに巣をつくるキタキツネ

※高橋良直撮影
※高橋良直撮影

 喉元が美しいノゴマ

※高橋良直撮影
※高橋良直撮影

 秋の訪れを告げるシギ・チドリ類

エゾオオマルハナバチを筆頭に、多様なハナバチ類が花々の受粉を助け、植物の命をつなぐ

「多様なチョウが棲む」ということは、幼虫の食草と成虫が求める花が絶え間なく存在する証。写真はベニシジミ

植物の根際に潜みカナチョロの愛称をもつヒガシニホントカゲ

海岸草原や海岸林を移動するエゾシカ

※高橋良直撮影
※高橋良直撮影

可憐な声と頬を持つホオアカ

※高橋良直撮影
※高橋良直撮影

冬、石狩川河口を舞うオジロワシ

海岸草原の豊富なバッタ類の代表格、ハネナガキリギリス

 

海岸砂丘の微小環境に適応してくらす海浜性甲虫類

 

海岸草原の中に独特の巣をつくるエゾアカヤマアリ


マウちゃんのハマナスさんぽ

(2022.03.発行)

石狩浜の自然と観光のガイドブック

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